私たちの日常の「足」として、もはや欠かせない存在である電車や飛行機などの交通・輸送インフラ。暮らしの発展とともにニーズが多様化する中、三菱重工グループはそれに応える製品を生み出してきました。そして今、人々や時代に新たな価値を提供しようとしているのが、国産初のジェット旅客機「MRJ」や都市や郊外を走る「交通システム」。そこには、三菱重工グループの技術力やリーダーシップ、顧客や乗客、環境への配慮、ものづくりへの情熱が息づいています。
2014年10月18日、満を持してロールアウトを迎えた日本初の国産ジェット旅客機、「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」。時代が求める優れた環境性能や、運航経済性、客室快適性を備えた地域間輸送用ジェット旅客機に、多くの関心が寄せられています。
新たな時代の幕開けとなる次世代ジェット旅客機の誕生
国産初のジェット旅客機MRJの誕生。それは、航空業界だけでなく、多くの人々が待ち望んだ瞬間でした。世界中で日本製品の優秀性が認められている中、旅客機だけは長らく国産がなく、その実現は多くの関係者の悲願でした。三菱航空機が、その夢を事業としてカタチにしたMRJ。YS-11以来、長年にわたり航空機産業を支えてきた三菱重工グループの技術力とリーダーシップの賜物です。その英知の結晶は、長年の経験で培った先進の空力設計技術と、次世代エンジンPurePower® PW1200G(注)などの採用により、従来機と比べ約20パーセント以上の低燃費を実現。これにより、航空会社の収益力向上に寄与するとともに、航路の増加による利便性の向上、また消費燃料の削減による環境負荷の軽減にも寄与します。さらに客室の快適性も徹底的に追求し、広い座席幅や通路幅など、小型機の常識を覆す乗り心地を実現しました。
世界に誇れる“メイド・イン・ジャパン”MRJには、参加企業をとりまとめる統合力と技術力という強さ、乗客や顧客に配慮した優しさ、ものづくりに対する情熱と真摯な姿勢から生まれた機能美が随所にあふれています。
世界の国々で起こっている交通問題。その解決のため、三菱重工はさまざまな都市交通インフラを提供してきました。それをさらに拡充するため、2014年に国内初の総合交通システム検証施設「MIHARA試験センター」が誕生。車両、軌道、信号などを含めた、交通システムの開発が加速しています。
人と環境に優しい都市交通の課題へのソリューション
都市化が進む世界の新興国では今、深刻な交通問題に悩まされています。交通インフラの整備が急務となる中、需要が高まっているのが、環境にも優しい交通システムです。そこで、日本の優れた交通システムをグローバル市場へ送り出すべく、和田沖工場内に「MIHARA試験センター」を開設。国際規格にも対応し、社内外問わず利用可能なこの施設は、日本の交通産業を底上げするキーになると期待されています。また、三菱重工では無人運転でゴムタイヤ走行をする新交通システムを手がけており、路線計画の自由度や低騒音、建設・運営費などコスト面で評価され、各国の都市や空港で採用されています。2014年には高速化し、鉄道に匹敵する速度を実現しました。さらには、最適なソリューションを明らかにするため、交通システム導入後の効果を多面的に評価するシミュレーション技術の開発も進めています。
このように三菱重工が手がける交通システムには、試験センターや自社開発車両などの技術力といった強み、乗客や環境へ配慮した優しさ、先進の設計から生まれた機能美が内在しています。
2014年10月2日、広島県三原市に開設された施設(三原製作所・和田沖工場)。競争の激しい国際交通市場で勝ち抜く基盤として、日本の交通産業の底上げにも活用。
より安全で、信頼性の高い交通インフラを輸出するため、国内に検証拠点を設けて開発スピードをアップ。

すっきりとした車内空間、背中をホールドするシート、揺れにくい台車など、乗り心地を意識した設計。車両の軽量化による運行経済性、環境負荷にも配慮している。

米国やアジア、中東などに幅広く展開。世界の新交通システム市場でトップを争うポジションを確立している。
(注)Crystal Moverには都市向けのUrbanismoと空港向けのCrystal Moverの2種類がある。
日本発、三菱重工の技術が世界の交通インフラを変えてゆく
MRJは国内外の航空会社と受注契約を結び、2017年の初号機納入へ向けて準備を進めています。また、交通システムもMIHARA試験センターにおいて、新交通システムの設備増強など開発もさらに進む見込みです。空と陸の交通・輸送インフラ分野において、夢をカタチに変えた技術が今後、世界を舞台に活躍していきます。

人にも環境にも
優しいテクノロジー
持続可能な社会には、利便性はもちろん、環境にも優しい交通インフラが不可欠です。MRJや交通システムには、人と環境に配慮したさまざまな工夫がこめられています。

巨大な飛行機が、なぜ大空を飛ぶことができるのでしょうか。その秘密は、「揚力」です。揚力とは、気圧の差によって機体を持ち上げる力のこと。飛行機がエンジンの力で前に進むとき、正面から当たった空気は、翼の上下に分かれます。このとき、上側と下側で空気の流れの速さに違いが生じて、気圧の差が生まれます。この圧力差が翼を下から上に持ち上げる力となるのです。
MRJは、先進の空力設計を駆使し、翼や機体全体をデザインしました。空気抵抗を極力抑え、空気の流れを巧みに操る美しい翼を備えていることで、効率的な飛行を可能にしています。

MRJのもうひとつの特徴が、次世代エンジン「Geared TurbofanTM(GTF)」の採用。通常、エンジンは高速で回転することで出力を高めますが、当然、高出力に伴い騒音も大きくなります。しかし、GTFは内部に組み込まれたギアにより、低速回転・低騒音で高出力を生み出すことができる画期的なエンジンです。騒音の基準のひとつとされる70デシベル(注1)で比較した場合、従来機ならブレーキを解除(注2)してから約9キロメートルまで影響していた騒音も、MRJでは約6キロメートルまでに低減しました。低騒音となったことで、今後ますます厳しくなるであろう、世界の空港周辺の環境基準にも対応が可能になります。都市部に近い空港から飛び立てるようになり、空港への移動時間の短縮など私たちの暮らしにも大きくかかわってくるでしょう。



新交通システムや鉄道、ETCなど、さまざまな交通インフラを手がける三菱重工。その中で今後、活用が期待されるのが「TOD(注3)シミュレータ」です。これは交通システム導入後の効果を交通量の変化や経済性などの面から評価するもので、三菱重工はその結果に基づき課題を抱える都市への最適なソリューションを提案・提供します。そのソリューションのひとつとして2014年に登場したのが、「高速新交通システム」。最高速度が時速120キロメートルになったことで、都市部の短距離の駅間を結ぶために開発された従来の新交通システムと比べ、郊外まで効率よく乗客を運べるようになりました。郊外と都市部がスムーズにつながることで、より幅広い地域の人々にとって便利に、そして優しい街づくりに貢献していきます。